【出産後、夫の言動にイライラしてしまい、喧嘩が増えました。夫は子煩悩になり、私のことは女として見てくれていないのか構ってくれません。こんなにイライラして疲れてしまうのなら、離婚した方がいいのでしょうか?】
(東京都 Sさん[45歳])
前編(Vol.4)は<産後クライシスって何?>をお話ししましたが、後編ではSさんの事例をみながら、産後クライシスの対処法についてお話ししましょう。
こんにちは、夫婦カウンセラーの緒方リサコです。
今回のご相談者Sさんのお悩みは、まさに産後クライシスに関わるものです。
Sさんは、31歳の時に一度離婚したのち、同僚であった現在のご主人とのお付き合いが始まりました。
おおらかな性格のSさんと、几帳面な性格のご主人(4つ年下)、お二人は9年間事実婚で過ごされてきました。
『お互いに自立していて、私たちほど良い関係の夫婦は他にはいない』と、お二人とも入籍にはこだわらなかったそうですが、色々な心境の変化もあって、10年目に入籍を決めました。
そして入籍直後に妊娠され、幸せの絶頂にいました。その後、無事に女の子を出産されましたが、出産後から夫婦関係は一変してしまったというのです。
ご主人の言動にイライラしてしまい、喧嘩が絶えなくなりました。
産後3年が経ちましたが状況は変わらず、現在は別居中で離婚も考えているそうです。
しかしながら、できる限り離婚は避けたいSさん。
『離婚を考えないようにするにはどうすれば…?』とカウンセリングにいらっしゃいました。
夫婦関係悪化の原因がつかめないまま産後3年が過ぎ、これまでずっとお1人で悩まれてきたといいます。
これは、産後クライシスのこじれによって起こった夫婦の危機といえるでしょう。
産後クライシスをこじらせてしまった原因は、 夫婦のコミュニケーション不足によるものと考えられます。
しかし現在は別居中で、そもそもコミュニケーションをとる機会が全くなかったので、コミュニケーションのきっかけとして夫婦一緒のカウンセリングを行いました。
夫婦カウンセリングをしていくことで、それぞれの育児や家族、夫婦に関する考え方・価値観をすり合わせていきます。
まずは、お1人ずつのカウンセリングでお話を伺いながら、気持ち・考えを整理しました。
《妻のカウンセリング》
・出産後セックスレス状態で、私の気持ちとしては以前のようにと思っているけれど、夫は恋人のような時間を作ってくれない。
・夫の愛情が娘にしか感じられない。
・以前は共働きだったが、今は専業主婦のためか上から目線で物を言ってくる。
・子育てに対する考え方のズレを感じる。
・離婚は望んでいない。
《夫のカウンセリング》
・僕としては、特に以前と変わっていないつもりだったから、何も気づかなかった。
・自分がどんな状況でも娘には笑顔で接することができるが、妻に対しては気心の知れた存在だからか特に意識していない。
次に、これを踏まえて夫婦カウンセリングを行い、お互いに思っていることをぶつけ合っていただきました。
そこではじめて色々な誤解やお互いの思いやりに気づけたようです。
今回の夫婦カウンセリングで、Sさんご夫婦は【幸せな家族】という同じ目標・目的を定められました。
出産前は、お互いに余裕があるので多少考えが違っても話し合うことができたでしょう。
しかし、産後お子さんに付きっきりの時間が増えると夫婦のコミュニケーション不足は加速…。
考えや価値観のズレを感じたとしても、話し合うことや互いの考えを理解することはなかなかできなくなってしまいます。
さて、これをお読みいただいて【産後クライシス】を乗り越えていく力にしていただければ幸いです。
一般的に女性は、妊娠・出産という大きな変化の際、ホルモンバランスが乱れ精神的にも不安定な状態が続きます。
出産では、全身の激痛と共に、かなりの体力を消耗し、その出産時の身体的ダメージはしばらくの間残ることになります。
産後も、慣れない育児、授乳のための食事制限や睡眠不足によるストレス、その小さな命を任されるプレッシャーもあります。
また長時間家で過ごすことによる生活環境の変化は、それまで勤めてきた職場や友人、社会に対する疎外感や孤立感に変わり、大きなストレスになることがあるでしょう。
このように、産後の女性は身体的・精神的・社会的と同時に3つの大きな変化に直面し、それはまさに人生最大の極限状態なのです。
物事を思い込みがちになり、子育ての悩みも尽きません。
この時期の心身ともにボロボロな状態では、万全な状態なら軽く受け流せるような些細な事が受け止めきれないほどの重たい一撃に思えるので深く傷ついたり、強いストレスを感じたりします。
人生最大の極限状態に、ホルモンバランスから引き起こされるどうしようもない不安やイライラ…
特に、一番身近にいるご主人の言葉や態度が気になり、不機嫌になることもしばしばです。
このとき女性が夫に求めていることは大きく分けて次の3つです。
⑴精神的に不安を感じているため、ご主人からの励ましや労いを求めています。
母親となってすぐに、自信満々で育児をこなせる女性はなかなかいません。自分の子育ては間違っていないか、きちんとできているのか、不安な気持ちを勇気づけ、毎日の頑張りを労う必要があります。
⑵身体的に常に疲労感があるため、少しでも休息を求めています。
ご主人が抱っこを代わってくれる、残りの家事を引き受けてくれるなど、仕事を終えて帰宅したばかりと分かっていても、家事・育児への参加を期待しているのです。
⑶社会的な孤立感を抱いているため、人としての会話を求めています。
身近なご主人はまともに会話のできる唯一の相手です。子どもの話ばかりではなく、夫婦としての会話も必要です。
では、赤ちゃん誕生後の男性はというと…
男性は女性ほどの人生の局面となる極限状態に陥る事はほぼありません。
仕事の疲労や、子どもの夜泣きなどで寝不足になったとしても、ある程度自分のペースで自分のために時間を使うことができます。
また生活リズムはさほど変わらないため、妻の社会的な孤立感は想像もつかないでしょう。
また、出産直後から育児をスタートしている母親に比べ、あまり子どもと過ごせない父親はなかなか育児スキルを磨けません。
同時に親になったようでも、男性の目に映る妻の姿は既に完璧な《お母さん》なのです。
身体的・精神的・社会的のどの危機も実感のない男性はなかなか女性の気持ちに共感できないため女性の求める3つのポイントにも気づけないのです。
実際、産後クライシスに突入してしまったご夫婦の夫が、ちょっと家事や育児を手伝ったところで、妻にはほとんど理解してもらえないといいます。
「やってもやっても妻の機嫌はよくならない」ともらす夫も多いですね。
実は、産後クライシスをこじらせてしまう夫に共通しているのは、育児や家事をしていないことではなく、「母親としての妻を、父親としてサポートする」という意識になってしまっていることです。
妻を一人の女性として見ることを忘れていないでしょうか?
もちろん、ご主人のことばかりを責めるのではなく、ご主人の気持ちを理解することも大事です。
結論、産後クライシスは、思春期の子どもの反抗期のようなものだとも言えます。
起こる現象だけを表面的に見れば、とても厄介なものに見えますが、それにはきちんと意味があり、成長のために必要なことなのです。
そして夫婦関係も、産後クライシスを経て、より強い結びつきが生まれるのではないでしょうか。
そのためにも、まずはお互い腹の内をさらけ出し、相互理解を深めること。産後クライシスを乗り超えたその先には、きっと【幸せな夫婦・家族】の土台が築かれているはずです。
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